コンビニエンスストアやスーパーマーケット、百貨店。日常を支える買い物の場が、100年に一度の大きな転換点を迎えている。無人決済やセンシング技術によるデータ活用は単なる省力化を超え、出店条件や値付けのプロセスなど、業態の姿や経営戦略の根幹を左右する存在になりつつある。EC(電子商取引)の浸透で来店はもはや前提ではなくなり、リアル店舗の役割が改めて問われている。最新の店舗をのぞくと、未来の買い物の姿が見えてきた。
値付けや発注、接客といった業務は担当者のノウハウや経験値が売り上げや利益を左右するだけに、多くの小売り事業者が人材の育成や維持に頭を悩ませてきた。イオンリテールやコープさっぽろ、イトーヨーカ堂といった先進企業は、属人化されがちな「現場の英知」を技術で補ったり置き換えたりする取り組みを始めている。
AIが最適値付け、惣菜の損失額2割減
2022年1月半ばの夕暮れ時、埼玉県川口市の「イオンスタイル川口」。夕食の買い出しとおぼしき客でにぎわう総菜売り場では、店員が総菜に手際よく値引きシールを貼っていた。シールの値引き額は、閉店までに売り切るための最適な価格をAI(人工知能)がはじき出したものだ。
イオンリテールは売価分析システム「AIカカク」を日本IBMと開発し、2021年7月末までに運営する約350店の総合スーパー(GMS)ほぼ全店で導入している。AIカカクの分析に用いるデータは多岐にわたる。気象情報やカレンダー情報、地域のイベント情報に加え、どの店舗で何時何分に売れたかを単品別に記録した販売データ、セール情報を基幹システムなどと連携して収集する。さらに売り場の従業員が、各商品がいくつ売り場に残っているかを入力する。これらを組み合わせ、客数予測と1000人来店した場合の購入数を示すPI値を使って適切な割引率を算出する。
イオンリテールは現在、AIカカクを主に総菜部門のロス削減に使っている。「総菜は利益率が高い一方で、食品の中でも廃棄や値引きによるロスの割合が高い部門だ」(イオンリテールの山本実執行役員システム企画本部長)。導入以降、総菜部門では値引きや売れ残りによる廃棄で生まれる損失額を約2割減らし、食品廃棄をおよそ半分にする効果が出ているという。今後は牛乳や納豆、生菓子といったあまり日持ちしない商品群にもAIカカクの活用を広げる方針だ。