企業は、経済安全保障リスクにどのように対応すればよいのだろうか。ここでは今まで国家間の安全保障上のリスクに対して関心が薄かった企業に向け、経済安全保障リスクへの対応の考え方と具体策を紹介する。

 経済安全保障リスクに備えることは、従来の企業活動のなかで、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)を策定し備えることに近い。BCPにおいても企業はテロや地震などの災害に備えてきた。BCPにおいて認識していたリスクに、経済制裁やサプライチェーンの分断を加える企業もあるだろう。企業に対するサイバー攻撃も見慣れた光景となった。身代金要求型のウイルスによる攻撃も散見され、取引先がサイバー攻撃を受けたためにサプライチェーンに分断が生じ、工場の稼働を停止せざるを得ないということも起きている。

 まず国家間の安全保障について解説する。安全保障の一般的な定義としては「既に獲得された価値が守られている状態」を指す。ソフトパワーの提唱者として有名な米政治学者のジョセフ・ナイ氏は「安全保障とは酸素のようなもの」と述べている。普段は意識せずとも、失った場合には窒息してしまうという意味だろう。「既に獲得された価値」としての守るべきものの定義は曖昧で、領土、環境や食料、サプライチェーンなど広範にとらえられている。この守るべき価値に対する脅威を排除することを各国政府は目指している。

 日本企業はこれまで、吉田ドクトリンと呼ばれる日米安全保障条約、軽武装、経済中心の体制によってビジネスに集中できる環境があった。しかしながら世界が多極化、不安定化するなかで企業も存続のために動き出す必要が生じているのが現状である。

 2022年1月17日、岸田文雄首相は内閣総理大臣施政方針演説で「経済安全保障も、待ったなしの課題であり、新しい資本主義の重要な柱です。新たな法律により、サプライチェーン強靱(きょうじん)化への支援、電力、通信、金融などの基幹インフラにおける重要機器・システムの事前安全性審査制度、安全保障上機微な発明の特許非公開制度等を整備します」と述べた。国家の安全保障が、既に獲得した価値を脅威から守ることであるならば、企業による経済安全保障とは、企業が自社の関わる基幹インフラを政府に協調し守ることによって、ひいては自社の事業存続に資するということだと考えられる。

企業は何をすべきか?

 では、企業は安全保障に対して、具体的にどう対策をとればよいのだろうか。

 企業活動において、1.グローバルなリスク管理、2.政府が策定する経済制裁などによって企業活動が制限されることへの対応――の2点が挙げられる。前者は武力紛争などによる破壊やサイバー攻撃への対応が挙げられる。

 後者は日本政府による経済安全保障の名の下に行われる貿易管理などへの対応が想定される。例えば、外国為替及び外国貿易法の第27条において、外国投資家は日本企業への直接投資などにおいて、「国の安全を損ない、公の秩序の維持を妨げ、又は公衆の安全の保護に支障を来すことになること」が想定される場合に、届出と審査が必要になる。

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