2022年2月25日、政府は「経済安全保障推進法案(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案)」を閣議決定した。折しも前日24日にロシアがウクライナに軍事侵攻した直後となった。第2次世界大戦後最大の地上戦とも言われるこの軍事侵攻により、まさに同法案により懸念されるサプライチェーンの分断が起きる可能性が高い。今回は経済安全保障推進法案について解説する。

2022年2月4日に開催された第2回経済安全保障推進会議で経済安全保障法制に関する提言を受け、取りまとめをする岸田文雄首相
2022年2月4日に開催された第2回経済安全保障推進会議で経済安全保障法制に関する提言を受け、取りまとめをする岸田文雄首相
(出所:首相官邸)
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 経済安全保障推進法案は下記の4つの分野から構成される。

  1. 重要物資の安定的な供給の確保
  2. 基幹インフラの安定的な提供の確保
  3. 特許出願の非公開化
  4. 先端的な重要技術の開発支援

 法案が今国会で可決されれば、2022年から2024年にかけて段階的に施行される。具体的に4分野それぞれを見ていく。

1.重要物資の安定的な供給の確保

 米中のテクノロジー冷戦、新型コロナウイルス禍というなかで企業にとってもサプライチェーンの確保が死活問題となっている。自動車、スマートフォン、パソコンにおける半導体、医薬品、リチウム電池に使用する鉱物など当該分野に関係する企業は多い。

 例えばウクライナ危機におけるロシアと西側諸国の関係悪化では、ロシアが世界の産出量の4割を占めるパラジウムの獲得が難しくなることが想定される。パラジウムは自動車の触媒コンバーターに使用されている。

 当該分野のポイントは、政府が安定供給確保すべき物質を指定(政令指定)したうえで、企業は指定された特定重要物質等の安定供給確保のための計画を作成し、所管大臣の認定を受けることである。認定を受けた企業は助成金等の支援を政府系金融機関等から受けることができる。企業としては事業用資金の調達方法としても検討することができるだろう。

2.基幹インフラの安定的な提供の確保

 政府は電気・ガス・水道等の基幹インフラの安定的な提供の確保が安全保障上重要であるとし、それらのインフラ業者が重要設備を導入、または維持管理等の委託を行う際に企業による計画書の事前提出、事前審査を求めることとなる。

 これはインフラにおける設備導入時やソフトウエアアップデート時に不正機能が埋め込まれることや脆弱性が残されることにより、外部からインフラの妨害や破壊が行われる懸念に対処するものである。米国をはじめとした諸外国では、インフラにおける外部からの介入や妨害行為を防ぐための規制整備が進んでいる。

 ソフトウエアの脆弱性情報はブラックマーケットで取引されており、攻撃者にとって取得しやすいものとなりつつある。日本でも同様に平時よりインフラの安全を確保することは、有事を含めた安全保障上の重要な施策となる。米国における中国ハイテク企業の排除が耳目を集めていたが、今般のウクライナ危機により、西側自由主義陣営対その他というデカップリングがより進んでいくことが想定される。

 本分野のポイントは、下記のように対象分野が決められており、これらのインフラ事業者に対して当局が審査することである。

対象分野:電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカード

 審査としては、重要設備の導入・維持管理等の委託に関する計画書の事前届出が求められる。審査の結果、外部から妨害行為が行われる恐れが大きいと認められるときには、妨害行為を防止するための必要な措置を当局が勧告する。

 当該分野で事業を行う企業は、設備導入や委託に対して事前からリスクを排除し、当局とコミュニケーションを取る必要があるだろう。

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