2021年4月、経済同友会は「強靱(きょうじん)な経済安全保障の確立に向けて」と題する文書を公表し「グローバル化と自由主義経済を謳歌する時代は終わりを迎えた」と言い切った。この文書をまとめたのが経済同友会副代表幹事の小柴満信JSR名誉会長だ。同氏に、経済安保が注目を集める背景や法案への評価、企業がなすべきことを聞いた。

(聞き手は外薗 祐理子=日経クロステック/日経コンピュータ)
経済同友会の小柴満信副代表幹事
経済同友会の小柴満信副代表幹事
1955年生まれ。1981年日本合成ゴム(現JSR)入社。取締役電子材料事業部長などを経て、2009年社長就任。2019年会長、2021年名誉会長。2019年から経済同友会副代表幹事を務める。(写真提供:JSR)

経済安保が注目を集める背景は何ですか。

 2009年にJSRの社長に就いた後、地政学上のリスクに対応するために様々な本を読んだ。製造業は投資の回収に8年程度かかるため、10年間安定してビジネスをする必要があり、地政学リスクへの対応は極めて重要だからだ。その中で学んだのは、長期的な循環は短期的な循環より読みやすいということだ。

 世界最大のヘッジファンド、米Bridgewater Associates(ブリッジウォーター・アソシエーツ)の創業者であるレイ・ダリオ氏は、国力を左右するのに重要なのはテクノロジーであると指摘している。そして過去500年に見られた大きなサイクルとして、70~80年ごとに世界の覇権は変わるという法則性を見いだした。

 振り返れば(第2次世界大戦が終結した)1945年に世界の覇権が英国から米国に移った。そこから80年近く経過した今、米国が相対的に衰退しつつある一方で、中国が急速に台頭している。中国が覇権を取るのか、米国が世界の覇権を持ち続けるのかは分からないが、少なくとも世界が転換期にあるのは間違いない。

2020年代は「静けさの前の嵐」

 ベストセラーとなった『100年予測』などで知られる地政学アナリスト、ジョージ・フリードマン氏は2020年に出版した『The Storm Before the Calm(静けさの前の嵐)』、邦訳は『2020-2030 アメリカ大分断──危機の地政学』において、米国は約80年周期の「制度的サイクル」と、約50年周期の「社会経済的サイクル」で動いてきたと分析した。社会経済的サイクルの背後で大きな役割を果たしてきたのが、自動車や半導体といったテクノロジーだという。

 目下の制度的サイクルは1945年に、社会経済的サイクルは1980年に始まり、それぞれ2025年ごろと2030年ごろまで続く。フリードマン氏は、2つのサイクルの変換期が2020年代最後(2028年)の大統領選だとするが、次のサイクルに移行する前には動乱の時代がやってくる。つまり「静けさの前の嵐」だ。

 私自身、2020年代に時代が変化したと強く感じている。それは一時的な変化ではなく数十年単位の長期的なサイクルで見た構造変化だ。グローバル市場でフェアに自由競争する時代は2010年代で終わった。

 米中対立が激化するなかで、各国はパワーゲームを繰り広げている。国際的なルール形成においては、自国優先のご都合主義が見え隠れする。それがロシアによるウクライナ侵攻でも現れている。こうした動向を理解せず、ただ単に自由貿易を標榜しているだけではナイーブ(世間知らず)だ。

 2020年代の世界秩序は厳しく、各国や各企業がアマゾンのジャングルの中で生き抜いていくような時代になるだろう。そのためにテクノロジーの力が特に重要だ。つまりサイバー攻撃技術を含む軍事技術に加えて、経済力や先端技術が武器になる時代になったわけだ。

 経済安保という概念が経営者にとっては重要になっている。事務系出身の経営者であってもテクノロジーへの理解は不可欠だ。日本企業はしたたかになる必要がある。

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