ナノ薄膜の立体構造を鋳型とした人工神経ネットワークの形成に成功

〜再生医療技術を支援する新しい生体インターフェースの実現に期待〜

 

 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田純、以下 NTT)は、生体に優しい高分子薄膜材料のみを用いて三次元構造体を組み立て、その内部で神経細胞を長期間培養することにより、構造体に沿って神経細胞ファイバが成長し機能が発現することを実証しました。今回の成果は、細胞生物学のための新しいツールになるだけでなく、再生医療における細胞移植技術や移植先での生体組織のモニタリングなどの新しい生体インターフェースとなり得ると期待されます。

 人工的な神経ネットワークなどの生体試料の構造物は脆弱で壊れやすく、そのままでは所望の形状への成形や、所望の位置にハンドリングするなどの精密な操作は困難です。そこでサブミリスケールの人工的な構造物で保護する等の工夫が必要ですが、生体に親和する素材であること、柔軟で丈夫な任意の三次元微細構造を作れること、人工構造が細胞の成長を妨げないことなどの条件を同時に満たす方法の確立が必要不可欠であり、世界中で盛んに研究がなされています。

 今回、NTTが長年研究を続けてきた炭素系のナノ材料であるグラフェン(※1)に着目し、グラフェンと高分子薄膜の作成が容易なパリレン(※2)とを組み合わせた特殊な二重薄膜が基板から剥がれる際に自発的に三次元構造に組み上がる現象を用いました。この現象を利用することによって、人工的なチューブの内部で海馬の神経細胞を長期間にわたって培養し、微小な神経細胞ファイバにまで成長させることに成功しました。また、この神経細胞ファイバはチューブに開けた微細な穴を通して外部の神経細胞とも接続してネットワークを形成し、細胞間相互作用(※3)を示すことも実証できました。

 グラフェンやパリレンは細胞に無毒で生体とよく親和します。また薄膜の二次元パターン形状や厚みを変えることで様々な形状の三次元構造を組み立てることができます。さらにグラフェンには優れた導電性があります。そのため本技術を用いることで、既存のグラフェンデバイスをさらに微細化するだけではなく、新たな生体インターフェースデバイスへの応用、例えば再生医療における移植細胞周辺部のモニタリングや、損傷した生体組織に埋め込み活性を促すフレキシブル刺激電極の作製、創薬スクリーニングのための三次元細胞培地の組立などに繋がるものと期待されます。

 NTTが7月に新設したバイオメディカル情報科学研究センタでは、これまで培ってきた材料研究の知見を今回のように生体機能材料の分野に展開するとともに、社内において実績ある情報科学分野の研究とも連携させて、生体情報処理や医用情報工学の研究に取り組んでいきます。

■研究の背景

 近年の医療技術の進歩とAIに代表される情報処理技術の進展に伴い、生体組織に直接アクセスして信号を取得したりモニタリングしたりするための生体インターフェースの実現への要望が高まっています。生体インターフェースでは、丈夫で柔らかい人工的な微細構造物で生体組織を保護しなくてはなりませんが、その目的に適合した材料の探索が世界中で盛んになされています。

 一方で、二次元の機能性材料の一種であるグラフェンは、原子一層からなる極めて薄いシート状の導電性材料であり、高透明性、高強度、耐薬品性、耐熱性、柔軟性、生体適合性を有する特徴から、シリコンや貴金属の代替としてトランジスタやバッテリ、センサ素子としての応用が期待されています。しかしながら、極薄の二次元シート状であることから、実際にデバイスとして活用する際に、高精細に三次元構造に組み上げ微細化することが困難とされていました。

 従来の研究では、グラフェンを自在にかつ簡単に加工・屈曲させるための手法は確立されておらず、三次元化する際にナノスケールの薄膜であるグラフェン自身の破断などを引き起こす技術的課題がありました。もしこれらの課題を解決して微小なグラフェンの三次元構造を任意に作製できるようになると、生体との親和性を活かして、マイクロスケールの細胞などの生体材料の表面にフィットする生体内埋め込み素子や、細胞培養基板などのインターフェースとして用いることが可能です。そのため、再生医療や医療・治療用デバイスなどのバイオ分野での応用が広く期待されます。

 *以下は添付リリースを参照

 

 

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添付リリース

https://release.nikkei.co.jp/attach_file/0521633_01.pdf