世界初、分数電荷準粒子のアンドレーエフ反射の観測に成功

〜超伝導特有の現象と考えられていた常識を覆す成果〜

【概要】

 日本電信電話株式会社(NTT)と科学技術振興機構(JST)は、フランス国立科学研究センター エクス=マルセイユ大学と共同で、半導体を用いて電子1個よりも小さな電荷(分数電荷準粒子(※1))のアンドレーエフ反射(※2)を観測することに成功しました。これは二次元電子系(※3)が低温・強磁場中で示す分数量子ホール状態(※4)において、分数電荷準粒子が界面に入射する際、電子が透過し、分数電荷を持つ正孔が反射される現象です。これまでアンドレーエフ反射は超伝導体に特有の現象と考えられてきました。超伝導体では2つの電子がペア(クーパーペア)を作って電流を運ぶため、電子が超伝導体に入射する際、電子のペアが透過し、電荷を保存するように正孔が反射されます。超伝導体以外の物質におけるアンドレーエフ反射の可能性は1990年代に理論的に指摘されていましたが、理想的な界面を作ることが難しく、実験では観測されていませんでした。今回の実験により、半導体において、かつ分数電荷でもアンドレーエフ反射が起こることが明らかになり、現象の普遍性が示されました。分数電荷準粒子はトポロジカル量子計算(※5)への応用も期待されています。本成果は、分数量子ホール状態と通常伝導体の界面における電荷移動メカニズムを明らかにするもので、準粒子を操作する量子情報デバイスの実現に向けて重要な知見を与えるものです。

 本研究成果は、5月14日英国科学誌Nature Communicationsにオンラインで掲載されます。

1.研究の背景

 超伝導体では2つの電子がペア(クーパーペア)を作って超伝導電流として流れます。超伝導体に外から電子(負の電荷e(※6)を持つ。)が入射すると、この電子がクーパーペア(電荷2e)を作って超伝導体中に流れ込み、電流が増大します。一方、この過程全体では電荷量が保存する(電荷保存則(※7))ため、透過電流の増大を補償するために界面から正孔が反射されます(図1左)。この一連の現象をアンドレーエフ反射と呼びます。アンドレーエフ反射は超伝導体界面における電荷移動の素過程(※8)であり、超伝導接合を用いた様々なデバイスにおける基本原理です。

 従来、アンドレーエフ反射は超伝導体に特有の現象と考えられてきました。しかし、その根底にあるのは、より広い普遍性を持つ電荷保存則です。従って、電流を運ぶ粒子の電荷が電子の電荷eと異なれば、超伝導体以外でも同様の現象が起こる可能性があります。そのような系の代表として知られているのが、分数量子ホール系です。分数量子ホール効果は、二次元電子系に低温で垂直に強い磁場を加えたとき、ホール抵抗が特定の分数比を持つ値に量子化する現象であり、このとき電流を運ぶのは電子よりも小さな電荷(例えばe/3やe/5)を持つ分数電荷準粒子(以下、「準粒子」)です。いま、分数量子ホール系が通常の金属と接していて、準粒子が分数量子ホール系側から入射する場合を考えます。準粒子は金属の中に電子として入っていくため、界面で透過電流が増大し、同時にそれを補うべく準正孔の反射が起きて逆符号の反射電流が観測されると考えられます(図1右)。この現象の観測は、アンドレーエフ反射が異なる物質同士の界面における普遍的な電荷移動メカニズムであることを確認することに等しく、物性物理学の極めて重要な課題であったと言えます。ところが1990年代にこの現象が理論的に予言されて以降、盛んに研究されてきたにもかかわらず、分数量子ホール系と金属の良質な界面を作製することが困難なため、今日に至るまで20年以上観測に成功した例はありませんでした。さらに、ある種の準粒子はトポロジカル量子計算における量子ビットの構成要素として期待されており、量子情報技術の発展のためにも、準粒子の基本的ダイナミクスであるアンドレーエフ反射の観測は大きな実験的課題であったと言えます。

 今回、研究チームは、ナノスケールの半導体加工技術を駆使し、精密な分数-整数量子ホール接合(※9)を作製することで、世界に先駆けて準粒子のアンドレーエフ反射の観測に成功しました。

 ※以下は添付リリースを参照

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添付リリース

https://release.nikkei.co.jp/attach/610335/01_202105171104.pdf