データ駆動型材料開発の可能性
材料の「大地図」が意思決定を支援
材料分野で、世界をリードしている日本企業は少なくない。素材メーカーや石油化学メーカーだけでなく、幅広い分野で材料の強みを競争力としているメーカーが存在感を示している。
ただ、中国や韓国などのメーカーの追い上げは急だ。そういった国々が同等の品質の材料を供給できる技術力をつけたとしたら、価格の勝負になってしまう。そんな危機感を抱いている企業も多いのではないか。研究開発をさらにスピードアップして競争力の高い材料を市場に提供する必要があるだろう。

ものづくりデータ科学研究センターセンター長/教授
吉田 亮氏
こうした中で注目されているのが、材料開発においてデータサイエンスの手法を活用するMI(Materials Informatics)。いわば、データ駆動の材料づくりである。日本におけるMIへの取り組みをリードする研究者の1人が、情報・システム研究機構 統計数理研究所 ものづくりデータ科学研究センターセンター長/教授の吉田亮氏である。吉田氏はこう指摘する。
「データ駆動アプローチへの関心は高まっていますが、現段階では材料開発で活用できるほどのデータがほぼない状態です。データを解析して価値を創出するためには、まずデータを収集・蓄積する必要があります」
実験などを通じて得られたデータを、失敗したケースを含めて蓄積して材料開発に生かす。そういったMIが与える影響は大きいと吉田氏はいう。
「MIへの取り組みが進むことで、将来的には人間の意思決定を支援する『大地図』ができるのではないか。材料研究者は専門領域には詳しくても、他の領域についてはあまりよく分かっていません。材料の設計空間があまりにも広大だからです。これを体系的に整理すれば、個々の研究者は自分が大地図の中のどこにアプローチしているのかが理解できます。様々な材料の特性の分布も分かるでしょう。新たな知見やアイデアにつながる機会も増えると思います」
ただし、そのためにはいくつかの壁を乗り越える必要がある。次頁以降では、MIを実装し材料開発を加速するための課題、その解決アプローチについて考えてみたい。