LCCの取り組みがヒントに

 列車ごとに切符を管理し販売するという機能面の要件は、JR西日本でもあいの風とやま鉄道でもほぼ同じだが、運営母体の異なるJR西日本のシステムを流用することはできない。とは言え、事業規模がはるかに小さいあいの風とやま鉄道では当然、システム開発費も抑える必要があった。そこで吉村氏が思いついたのが、汎用のスマートデバイスであるiPadをベースとしたシステムの構築だ。

写真●「以前から、LCC(格安航空会社)のようにiPadを活用できないかと考えていた」と語る吉村隆章氏

 「LCC(格安航空会社)などでは既にiPadを使って航空券を発券していた。鉄道でも同じことができるのではないかと考えた」と吉村氏。汎用のスマートデバイスを活用すれば、専用端末よりも開発コストははるかに安くなる。さらにセルラーモデル(キャリア回線付きモデル)にすれば、通信インフラを用意しなくても、どこからでも利用できる。駅の窓口だけでなく、駅のホームや車内でも発券できるようにしたいと考えていた同社にはうってつけだった。

 吉村氏はセルラーモデルのiPadを導入することを前提に、キャリア3社に提案を求めた。その中から最終的にKDDIの提案を採用した。「安定した通信サービスはもちろんだが、当方の課題をくみ取って、システム開発まで含めた提案をもらった」(同)ことが決め手になったという。

開業まであと半年しかない!

 次なる課題はサービスインまで時間がないことだった。開業までわずか半年。「JR西日本で鉄道システムを担当してきた経験から考えると、完全に不可能と思えるスケジュールだった。しかも、安かろう悪かろうでは済まされなかった」(吉村氏)。費用面でも時間の面でも厳しい状況にあった同社がとった策は、徹底的に機能を絞り込んでシンプルなシステムにすることと、アジャイル開発の手法を採ることだった。

 具体的には、列車ごとに座席を管理するデータベースの構築を進める一方で、アプリケーションの機能は、発券や払い戻しなど最低限必要なものだけに絞り込んだ。システムを稼働させるプラットフォームにはクラウドサービス(「KDDI クラウドプラットフォームサービス」)を利用し、他のシステムと切り離して開発することで、開発の機動性を確保した。

 実際の開発を担当したのはKDDIのパートナー企業であるコスモサミットだ。コスモサミットは鉄道会社向けのシステム開発は初めてだったが、他の業界で予約システムを開発した実績はあったという。

写真●あいの風とやま鉄道が開発の初期に提示したライナー券のイメージ(左)とライナー券の実物
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 コスモサミットとの打ち合わせで吉村氏らは、画面イメージや、ライナー件の印刷イメージ(写真)など、できる限り具体的な形で、どんなシステムを実現したいかを見せていった。それを元に必要な機能をその場で絞り込み、プロトタイプを作っては試用して問題点をすぐに共有・反映する、というやり方で開発は進められた。

 「打ち合わせは月1回程度だったが、持ち帰って検討することはせず、その場で仕様を固めていった」と吉村氏。規模の小ささを生かした意思決定の早さが、開発期間の短縮につながった。