企業のソーシャルメディア運用で大切なのは持続的な運営だ。では、生活者との交流を継続するための体制をどう整えるか。特定の社員に頼り切りのケースが多いが、それではすぐに立ちゆかなくなる。属人的な運用からの脱却について、今回は考えてみる。

 国内企業のソーシャルメディア運営のあり方を一変させたのは、NHKのTwitterのアカウントだったとする声をよく耳にします。 

 「あのお堅いイメージのNHKがユルイ発信をしている」──。「PR一号」と名乗った広報担当者によるNHKらしからぬ個性的な投稿。それによって人気を博し、その後多くの企業が真似をすることになります。

 魅力的なコミュニケーションを生み出すことに長けた個性的な人物こそが、ソーシャルメディアで成功する秘訣だとされました。

 ただPR一号の担当者は2014年に退職。Twitterでの発信内容はその後大きく変化していきます。

 顧客を納得させるには、まず企業が自身の存在を信頼させることが重要。強烈な個性の社員による属人的な運営で共感を生む手法そのものは間違いではありませんが、持続性を意識しなければ企業が生活者と真の意味で密なコミュニケーションを図ることは難しいでしょう。

 属人的な運用では、ネット上で批判が爆発的に殺到する「炎上」と呼ぶトラブルが起こるリスクがある点も見逃せません。営業トークでは許される冗談も、ソーシャルメディアで企業の公の発言として情報を発信すると、誤解されてしまいます。

 実際、うかつな一言で企業ブランドが損なわれ、社長が謝罪する事態になったケースも少なくありません。

 属人的な運営と持続性のバランスをいかにとるべきか。今回はこの問題について、考えます。

属人的な運営のデメリット

 ソーシャルメディアアカウントを属人的に運営することは、企業経営の立場から考えてもよろしくありません。魅力ある発信を現在行ってくれる社員に、永続的にその業務を任せ続けることは、健全な人事を維持するうえで難しいでしょう。

 現場としては「せっかくの人材を異動させるなんて、上層部はソーシャルメディアに理解がない」とぼやいてしまいそうですが、こうした経営幹部の声に耳を傾けるべきです。

図1●後任のためにメソッドを作りたいと担当者
シャープも悩む「属人問題」
[画像のクリックで拡大表示]

 筆者は先日、シャープのTwitter担当者と意見交換する機会がありました。大阪コピーライターズ・クラブが選出する2014年度の最高新人賞を受賞した人物だけに、属人的な運営についてどんな意見を持っているのか思い切って質問をぶつけてみました。

 すると次のような回答が返ってきました。「確かに属人化は問題だと思います。後任のためのメソッド(教授方法)を作れると思うし、作らないとダメだと思っています」とのことでした(図1)。

 解決の一つのアイデアとして、「bot(ボット)」と呼ぶ、定型文を定期的に配信するプログラムを活用する手があると私は考えます。

 Twitterには人間ではなくbotが投稿するアカウントがたくさんあります。例えば米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ副所長の石井裕氏は、偉人の名言をつぶやくbotを数多くフォローしているそうです。

 こうしたbotを使って生活者とコミュニケーションを図るのは、真摯な対応が求められる企業にはあり得ないと決めつけるのは早計です。ソーシャルメディアで人気を博す秘訣の一つは、フォロワーの発言や行動に対してまずはいち早く反応してあげること。

 リアルタイムでのコミュニケーションを意識し、彼らの発信に常に耳を傾けているんだという姿勢を示すことが肝心です。botであっても反射神経良く対応できれば、好感度が上がるかもしれません。

 企業によっては事前に記事を作っておき、上司に了解を取り、さらに各部署と調整したうえで決められた時間にソーシャルメディアの投稿をしているようです。

 中にはフォロワーからの問いかけに対し、マニュアルに従って機械的に決まった文章を返信するだけのところもあります。効率的な運営をするうえで仕方ない部分もありますが、だったら高度なbotを使って気の利いた名言をすかさず返信した方が生活者は興味を持ってくれるかもしれません。

 もっと言えば、杓子定規な対応しかできないようなら、botの方が意義のある運営であるとさえ感じます。

 米国の経済学者フィリップ・コトラー氏は、「顧客にとっての価値を(企業が)高めたいのなら、目的達成のための時間・心理的負担の軽減(便益)とコストの差を最大化すること」だと解いてます。価値は便益からコストを差し引いたものだそうです。

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