せっかくスマートデバイス(スマデバ)を導入したのに、活用が広がらない。そんな悩みを抱えた企業の担当者も多いはずだ。突破口は「アメ」と「ムチ」にまつわる3カ条にある。

●スマデバを使いこなす3カ条
●スマデバを使いこなす3カ条

大鉄精工
[1] 使っただけお金で「報いる」

 企業でスマデバの活用が広がらない理由の1つに、インセンティブの欠如がある。利用者がスマデバを使う利点を見いだせず、結果的に元の仕事のやり方に戻ってしまうというパターンだ。

 そんな状況を回避する手っ取り早い方法は「アメ」を用意すること。利用者の自主性に任せているだけでは、「動かないスマデバ」への道にまっしぐらといえる。

 金属の切削加工を専門に手掛ける町工場の大鉄精工(埼玉県三郷市)はスマデバを使えば使うほど、給料が増えるという大胆な仕組みを採用した。スマデバの利用とお金(給与)を直接結び付けることで、社員にとってのメリットをはっきりさせた。

●大鉄精工はスマデバでマニュアルを作ると給料が増える
●大鉄精工はスマデバでマニュアルを作ると給料が増える
大鉄精工の木下道貴社長(下)は日次で社員の給与を算出する(左)
[画像のクリックで拡大表示]

 大鉄精工は2014年2月、ITベンチャーのスタディスト(東京・千代田)が提供している、スマホやタブレットで簡単にマニュアル(作業指示書)を作成できるツール「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)」を導入した。熟練の担当者のスキルやノウハウを新人でも分かるような形で残すためだ。

 技能伝承は大鉄精工にとって喫緊の課題。技術力が必要で、加工に手間暇がかかる商品を小ロットで生産できることを強みに、競合と渡り合ってきたからだ。

 木下道貴社長は「属人的なスキルやノウハウをみんなが理解できる形で残しておかないと、長期的な会社の成長は難しい」と話す。これまでも切削加工の方法や細かなノウハウをノートにびっしりと書き残してきたが、他の人が見たときに分かりにくかったり、目当ての箇所を探しづらかったりした。

 大鉄精工は木下社長を含めて、わずか3人の小所帯。大企業のように、作業の標準化やマニュアルの作成を専門に手掛ける人材を雇う余裕はない。そのため、社員が仕事の合間に、マニュアルを作るしかない。

 とはいえ、社員は目の前の仕事に手一杯。とてもスマデバでマニュアルを作ってはいられない。どうしても自らが作成し、慣れ親しんだ手書きのノートに頼ってしまう。社員のITリテラシーも高いとはいえず、そもそもスマデバを使いこなすハードルは高かった。

スマデバを使うと給料アップ

 そこで、木下社長が編み出したのが、スマデバでマニュアルを作れば給料が増えるという明快な仕掛けだ。2014年12月に導入し、試行錯誤しながら改善を重ねている。

 具体的な流れはこうだ。新商品の加工を手掛け、スマデバでマニュアルを残せば、商品1個当たりの作業賃の1.1倍を支払う。一方、既存のマニュアルを使ってリピート商品の加工を担当した社員に対しては、1個当たりの作業賃を通常通りに支払うという具合だ。作業賃の“割増率”は仕事の難易度によって変わる。

 木下社長は情報スペース(岡山市)のカレンダーシステム「Jorte(ジョルテ)」を導入し、日次で社員の作業賃を算出・管理する。ジョルテを見れば、社員が担当した仕事の難易度や業務量を一目で把握できるようにしている。

 高いスキルが必要な新商品の加工はリピート商品と比べて作業賃が割高で、1.5倍を超えるケースもある。さらに、マニュアルを残せば、作業賃が増えるため、社員にとってうま味は大きい。

 木下社長は「スマデバでマニュアルを作る利点がはっきりするし、より難易度の高い仕事に挑もうというモチベーションが生まれやすい」と狙いを説明する。

 今後は新卒採用に積極的に取り組む考えで、今春に新たに1人雇う予定だ。このマニュアル作りの仕組みは採用に有利に働くとみる。

 確かに経営者目線で見れば、熟練の担当者のスキルやノウハウを見える化し、後進のために残す仕事は大切だ。しかし、社員の目線で見ると、目の前の仕事をこなすのが精一杯で「長い目で物事を見るのは難しい」(木下社長)。特に中小企業だとそうだろう。

 経営層やIT担当者が「便利なはずだから、使ってもらえて当然」という“上から目線”でスマデバの導入を進めている限りは、いつまでたっても利用範囲や頻度は増えない。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。