本連載では、デジタルマーケティングに長年携わってきた上島千鶴氏(Nexal)と熊村剛輔氏(セールスフォース・ドットコム)に、日本のBtoBデジタルマーケティングに関わる「なかなか言いづらい本音」を対談形式で聞いている。
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第4回で最終回となる今回は、日本のBtoBマーケティングの技術の進化が現場にどのような影響を及ぼしているのか、そして技術を使う企業ユーザーが理解しておくべき注意点は何かを聞いた。
数年前にマーケティングオートメーション(MA)を導入する日本企業が増えてきた当時、私は技術を取り入れることで営業とマーケティングの現場が一変したと感じました。これからも技術進化は進んでおり、これらの現場も変わるのでしょうか
上島:変わっていくでしょう。特に時間の使い方や、個人の思考などが大きく変化するかと。
熊村:変わると思います。だからこそ、これからマーケターは、スペシャリスト(第3回参照)だけではなく、プロデューサーにもなれないといけない。スペシャリストがこれまでやってきた仕事を、テクノロジーが肩代わりできるため、それをきちんとプロデュース/オーケストレーションできないといけないはずです。
例えばデジタル広告の入札など、特定の分野にたけたスペシャリストはいても、その大半は「膨大な作業を簡単にできる人」であったり「経験則による“カン”が働く人」であったりすると思います。でも、突き詰めていったらいずれは自動入札ツールで補えるかもしれません。スペシャリストの仕事が、全部とは言わないまでも次々にテクノロジーに取って代わられるはずです。
これからのマーケターは、これらスペシャリスト(人ではなくツールも)を束ねられるオーケストレーションもできるような人でないと務まらなくなってくるでしょう。
よく話題になるのは、AI(人工知能)が人間に取って代われるまで実用化が進むと、今まで大量の作業時間がかかっていたことを任せられるので、その時間を戦略的に活用できるという話です。
熊村:テクノロジーでできることの多くは、省力化か効率化だと思います。省力化や効率化の名の下に減る業務をやっている人たちは、おそらく「仕事」ではなく、「作業」しかしてないのではないでしょうか。
マーケターの「仕事」はなくならないと思います。テクノロジーは「作業」を削るだけで、むしろ「仕事」として考えなきゃいけないことは増えるはずです。技術の進化で自分の「仕事」が減ったと思ったら、それはたぶん「作業」しかしてないことになります。
上島:実際にはそうなるかと思いますが、現時点では技術も発展途上なので、自動化に向けた「作業」が増えて、業務過多になっている傾向はあります。
「作業」に追われていた人たちは今までとは違う発想が求められるわけですね。
熊村:省力化、効率化というものが極限まで行くと、もしかしたら、それを実行する従来型のマーケティング部門が要らなくなる気もしています。誤解を受けそうですが、マーケティングをデジタルで実践することが当たり前になったら、マーケターが専門にやることが少なくなってくると思います。
例えば営業部門の担当者、あるいはPRや広告宣伝の担当者など、いろいろな部門の担当者が、現在マーケティング部門が持っているファンクションをばらばらに持ち始めるようになるかもしれません。
システムの成り立ちからいうとMAはSFA(営業支援システム)と別のシステムでしたが、ユーザー企業にはMAの機能とSFAの機能を一つの画面で見たいという要望があります。実際そうやって運用している企業の事例を取材したこともあります。
上島:それは企業規模によって変わると思います。中堅や中小企業であればMA機能とSFA機能は一緒の方が分かりやすいですが、大企業で組織ミッションが分かれている場合は、リードデータの管理を含めて別DBにした方が良いケースもあります。
熊村:ただ組織ミッションが分かれているとはいえ、もともとマーケティング部門が持っていた領域と営業部門が持っていた領域には、いくつか重なるところが出てくるはずです。