2018年7月24日、ホテル雅叙園東京で開催された「ITインフラSummit 2018夏」の基調講演に、デンソーの成迫剛志氏が登壇。システムの内製やアジャイル開発など、“シリコンバレー流”を標ぼうする同社の情報システム部門の変革について説明した。

デンソー MaaS開発部部長 兼 デジタルイノベーション室室長 成迫 剛志氏(撮影:海老名 進)
デンソー MaaS開発部部長 兼 デジタルイノベーション室室長 成迫 剛志氏(撮影:海老名 進)

 冒頭、成迫氏は「これから10年ほどで、想像を超える変化が起こる」と述べた。特に、自動車業界は現在、100年に1度とも言われる変革期を迎えており、コネクテッドカーや自動運転、電動化、所有から利用への流れ、などの波が一斉に押し寄せている。「発展途上国の需要があるため今後10年は販売台数が増えるが、いつかは減る」(同氏)。

 こうした社会の変革の中、IT(情報技術)の位置付けは大きく変わる。従来の「業務を下支えするもの」から、「ビジネスを作りだす材料」になっていく。ところが、現在の日本の情報システム部門の多くは、IT先進国と言われる米国に比べると、こうした変化に追従できるだけの素地ができていないという。

 「米国と日本では、IT投資の質が異なる」と成迫氏。米国では、事業を推進して売り上げを伸ばすためにお金を使う傾向が強いが、日本のIT投資は、現状の業務の効率を高めてコストを削減するために使われることが多い。この傍証として同氏は、米国ではITエンジニアの72%はユーザー企業に属しているが、日本ではITエンジニアの75%がベンダーに属しているという調査データを示した。

 この状況を打破するために、デンソーが社内に設置したのが「デジタルイノベーション室」と呼ぶ組織だ。事業部門のニーズを発掘するチーム、内製によるシステム開発チーム、基盤開発/技術開発チーム、などで構成する。2017年4月にメンバー2人で発足し、現在は35人の規模になっている。うち社員は12人(社内公募5人、中途採用7人)、協力会社が23人という。

 デジタルイノベーション室は、変化に対応するためにシリコンバレー流を実践する組織である。「シリコンバレーでシステムを外注している会社はない」。成迫氏はデジタルイノベーション室が内製を重視する意義についてこう述べた。

事業部門とともにアジャイル開発でシステムを内製

 環境が変化するなか、競合に対抗していくために、成迫氏は以下の3つの指針を掲げている。(1)デザイン思考に立ってゼロからイチを創る、(2)クラウドとオープンソースを活用して速く安く作る、(3)システム内製化とアジャイル開発によって顧客とともに作りながら考える。

 デジタルイノベーション室は事業部門に対して、「面倒な開発を含めて何でもやる。企画構想段階で声をかけてくれてもいい」というスタンスをとっている。メンバーのモチベーションは高く、「(デジタルイノベーション室には)スタートアップの働きやすさと厳しさがある」といった、ポジティブな声が出ているという。

 事業部門の需要を発掘するために大切なのは、事業部門と一緒に過ごすことで、無意識の声を聞き取ることだという。「ヒアリングやアンケート調査といった手段では、現状の延長線上にある需要しか見えてこない」と成迫氏はその理由を説明した。

 また、事業部門が本当に必要としているものを的確にシステムに反映するためには、アジャイル開発が有効だと成迫氏は語る。事業部門が提示した要件に対し、シンプルにシステムを実装し、実際に見せてフィードバックを受けることで、本当に必要としているものを作れるのだという。