ものづくりのサプライチェーンを構成する中堅企業が数多く立地する静岡県。昭和14(1939)年に創業した老舗・金子歯車工業も、日本のものづくりを支えている一社だ。同社の専門は、文字通り歯車(ギヤ)の開発や製造である。

汎用部品のイメージが強いが、歯車には様々な種類が存在する。具体的には、平歯車、かさ歯車(ベベルギヤ)、内歯車、円筒歯車、ラックギヤ、スプライン軸、ウォームギヤなど、機械の用途や目的に応じて多種多様な形態・構造の歯車を使用する。

中でも同社が得意としているのが、「スパイラルベベルギヤ(曲がり歯かさ歯車)」と呼ばれる歯車だ。歯すじを直線(ストレート)ではなく曲線(スパイラル)にすると製作の難易度は上がるが、作動時の振動や騒音を軽減する効果をもたらす。

かさ歯車は回転の方向を90度変換することが可能な歯車で、良く知られた応用例としては差動歯車(ディファレンシャルギヤ)がある。差動歯車を利用することで、例えば自動車がカーブを曲がるときに左右の車輪の間で生じる回転数の差を吸収することができる。同社では、スパイラルベベルギヤを始めとした多品種の歯車を自動車、航空機、産業機械、ロボット、鉄道インフラ、農機など様々な業種や顧客向けに製造している。

「自動車向けでは、電動パワーステアリング(EPS)用の歯車を手掛けている」(同社の金子佳久 代表取締役社長)という。EPSは電気自動車やハイブリッド車で欠かせないシステムである。

航空機向けでは、いわゆる「装備品」に用いられる歯車を製造している。具体的には、翼の揚力を調整するフラップのアクチュエータや、機体の角度や方位を検知する装置などで使用される歯車を供給しているという。同社は、浜松市の中堅企業が中心となって結成され、航空・宇宙産業関連の部品製造を手掛ける協同組合「SOLAE(ソラエ)」のメンバーでもある。

同社の売り上げは上述のような様々な分野の顧客企業群から構成されるが、いずれも約10%ずつとなっており、事業構成のバランスが良い。

顧客のセグメントが自動車や航空・宇宙などいずれか一つの分野に集中していると、その産業が順調に成長しているときは良いが、ひとたび何らかの事故や事件が発生して市場が突然縮小するような場合、そのサプライチェーンを構成する企業も大きな影響を受ける。同社が歯車の分野で長期間にわたって老舗として安定して事業を続けていられる秘訣は、高い技術力(後述)だけでなくバランスの良い事業構成にもありそうだ。

加工を行っている歯車製品の例
加工を行っている歯車製品の例
加工中のスパイラルベベルギヤ
加工中のスパイラルベベルギヤ