リードタイムを劇的に短縮する「バーチャルサンプル」

 コロナ禍の影響で、国内外の拠点や客先との行き来が難しくなっている。この状況を逆手にとり、デジタルトランスフォーメーション(DX)によってビジネスを大きく加速しているのが、スポーツ用品大手のミズノだ。

 スポーツシューズを開発しているミズノグローバルフットウエアプロダクト本部は、主にアジア諸国の工場で製造していたシューズの試作サンプルの一部をデジタルデータの「バーチャルサンプル」に置き換えた。これにより、開発のリードタイムを大幅に短縮しただけでなく、環境負荷の低減やデザイン力の強化、製品の性能やクオリティの向上、マーケティングや販売活動へのデータ展開を同時に実現している。

バーチャルサンプルの例。新製品の質感やデザインの詳細を3Dデータで世界各地の関係者と共有する
バーチャルサンプルの例。新製品の質感やデザインの詳細を3Dデータで世界各地の関係者と共有する

 従来の開発工程では、シューズのデザインが決まると、構造やディテール、カラーバリエーションなどをデザイナーが国内外の工場に指示書で伝達。工場はそれに基づき、必要な素材をサプライヤーに発注する。新しい生地を編んだり染色したりする工程があるため、素材の調達には数週間ほどかかる。その間、工場は型紙などの準備を進め、素材が届くと同時に製品サンプルを製造し、世界各地の関係者に輸送していた。

 「製品サンプルの製造に時間がかかることは、デザイナーにとっても問題でした」と語るのは、ミズノ株式会社 グローバルフットウエアプロダクト本部 デザイン課 フットウエアデザイナーの中村敬氏だ。通常、試作サンプルは商品検討会やイベントのために作る。期限があらかじめ決まっており、製造に時間がかかればかかるほど、デザインワークに使える時間が減らされていた。

 そこで、同社は試作サンプル製造の一部を3Dデータによるバーチャルサンプルに置き換えた。3Dデータのモデリングからカラーバリエーションの作成まで、早ければ1週間で終わる。バーチャルサンプルが完成すれば、データを瞬時に世界各国の関係者に送るだけだ。輸送にかかる時間とコストもない。コロナ禍はこの動きを一層加速させた。

 しかし、ここで1つ疑問が浮かぶ。人が履くシューズとは、デザインの良し悪しだけではないはずだ。履き心地や性能も重要な要素になる。実物の試作サンプルの作成数を減らしても機能的な商品価値の確保に問題はないのだろうか。

 この疑問について、中村氏は「バーチャルサンプルに置き換えたことで、実はシューズの機能や性能も向上すると私は考えています」と語る。いったい何が起きているのか。

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