
サイバーストラテジー・エバンジェリスト
中村 玲於奈 氏
世界情勢を背景に、自国の独立・生存・繁栄を経済面から確保する「経済安全保障」の重要性が増している。サプライチェーンからの地政学的なリスクの排除、重要情報の窃取を狙うサイバー攻撃への対処、他国によるエコノミック・ステイトクラフトへの対策など、民間企業が経営課題の一環として取り組むべきことは多い。そのポイントをサイバーリーズンの中村玲於奈氏に聞いた。
民間企業の活動にも影響する経済安全保障
新聞の政治面などで「経済安全保障」という言葉を目にする機会が増えてきた。2021年10月には経済安全保障を担当する内閣府特命担当大臣が新たに任命され、2022年5月には国会で経済安全保障推進法が可決・成立している。経済安全保障とはどのようなものなのだろうか。
「経済安全保障」とはどのような概念なのでしょうか?
中村:経済安全保障の考え方は、日本を取り巻く国際情勢や脅威が変化する中で、2020年6月に自民党内に設置された新国際秩序創造戦略本部(当時)での議論や提言をベースに生まれました。言葉自体はいろいろな文脈で使われていますが、「外国からの経済的および軍事的な脅威を念頭に、我が国の独立・生存・繁栄を経済面から確保すること」と考えると分かりやすいかと思います。
具体的には、例えば重要物資のサプライヤチェーンについてはリスクの高い国に依存しないように自立性を高める、あるいは、軍事転用可能な民間技術の流出や漏洩を抑える、といったことが挙げられます。
また、「エコノミック・ステイトクラフト」(Economic Statecraft)という言葉もよく使われるようになってきました。軍事的手段ではなく経済的手段を用いて他国に対して影響力を行使し、行動変容などの戦略的な目的を達成するといった意味を表していまして、経済制裁、特定資源の輸出禁止、データ越境移転規制などが該当します。日本が行う場合もあれば、他国が日本に対して行ってくる場合もあります。
世界秩序の変更を試みようとする国がいくつか存在しているのは事実であり、いわば守りとしての経済安全保障と、攻めとしてのエコノミック・ステイトクラフトを駆使しながら、我が国の独立・生存・繁栄を確保しようという動きが日本でも起きていると考えればいいでしょう。
経済安全保障やエコノミック・ステイトクラフトは、民間企業にも関係あるのでしょうか?
中村:現状を変更したいと考える国(脅威)と、現状を維持したいと考える日本などの国との間で、経済的および軍事的な攻防が繰り広げられているのが現在の状況です。サイバー攻撃によって窃取された自社技術が世界秩序の変更に使われてしまう可能性や、他国がエコノミック・ステイトクラフトを用いて特定品目を日本には輸出しないといった圧力をかけてくる可能性を考えると、サイバーセキュリティ、サプライチェーン、輸出入管理などにおいて、民間企業でも改めて対応を強化する必要があると考えます(下記図参照)。
>>経済安全保障の観点で取り組むべきサイバーセキュリティ対策とは
