コロナ禍で社内の生販在計画業務が大きく混乱

 2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延で世界のサプライチェーンは大きな混乱に陥った。ロックアウトによる生産の停滞や遅延、物流の寸断やコンテナの取り合いなどは2021年後半まで続き、多くの企業に影響が及んだ。

 「あのときの苦労は二度としたくない」。こう語るのは、兵庫県に本社を置き、業務用音響機器や防犯・監視用セキュリティ機器などをグループ企業の国内2社3拠点、海外3社で生産し、世界120カ国以上に供給するTOAで、SCM戦略部長を務める上田昭則氏である。

上田 昭則 氏
上田 昭則 氏
TOA株式会社 SCM本部 SCM戦略部長

 1934年創業で80余年の歴史を持つ同社も、コロナ禍によって製品の生産や供給の大きな問題が露呈したという。とくに上田氏が「苦労した」と表現するのが、適正在庫をコントロールする生販在計画業務、いわゆる「PSI」(Production、Sales、Inventory)業務で生じた混乱だった。

 同社のPSI業務の流れは、下記図1の通りだ。およそ4000種類の製品を対象に販売実績などから需要予測を行い(図1左)、受注残や現状在庫などを加味しながらMicrosoft Excelで作成したPSIツールを使って生産数量や在庫計画を作成(図1中央)。そのデータは国内外の6工場に送られて具体的な生産計画が調整され、出荷予定時期などの情報が本社に戻された後(図1右)、工場に発注指示(PO)を行っていた。

図1●TOAにおける生販在計画(PSI)業務の流れと課題。Microsoft Excelベースの複数のツールでデータをやり取りしなければならず、一連のサイクルを回すのに1週間を必要とし、速やかな対応ができなかった。また、計画に変更が生じた場合は調整に多くの工数を要していた
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図1●TOAにおける生販在計画(PSI)業務の流れと課題。Microsoft Excelベースの複数のツールでデータをやり取りしなければならず、一連のサイクルを回すのに1週間を必要とし、速やかな対応ができなかった。また、計画に変更が生じた場合は調整に多くの工数を要していた

 途中にデータのやり取りや担当者の個別調整も入るため、これらの計画を一巡させるには1週間を要していた。もちろん、データ受け渡しなどに要する時間差、ツールの使い勝手や応答性に起因する効率面での課題は同社も認識しており、いわゆるKKD(勘・経験・度胸)から脱却しデータに基づく効率的な「スマートSCM」への転換を検討していたが、2019年までは表面上は業務も問題なく回り、多少の変更が出ても対応ができていた。

 ところが、コロナ禍の影響で需要が見通せなくなり、さらに多くの部品の納期が不確定となったとき、PSI業務の流れが煩雑であるがゆえに、生産計画や顧客納期の調整がうまく回らなくなってしまったという。

 「平時では問題がなかったのですが、サプライチェーンのバランスが崩れたときに追随や対応ができないことが露呈したのです。結果として社内は大きく混乱し、お客様にもご迷惑をおかけする事態になりました」と上田氏は振り返る。

 TOAは各部門が一丸となって、この危機に対応。競合他社も製品供給に苦労する中で、製品の供給責任を果たしたことで信頼を勝ち取り、むしろ引き合いは増加したという。ただし、以前から課題として把握していたように、従来のPSI業務が煩雑かつ不安定であることがコロナ禍をきっかけに改めて認識された。そこでコロナ禍を一つの契機として、長年の課題でもあったスマートSCMの実現に向けて新しいPSIシステムの構築を決断し、その導入プロジェクトをスタートさせた。

 PSI業務の課題解決に向け、TOAはどのような導入プロジェクトをスタートさせたのだろうか――。

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