「氷上のチェス」とも称されるカーリングは、データに基づく戦略の立案が極めて重要な競技の1つだ。しかし、選手やリンクの微妙なコンディションによってもプレーの結果が大きく変わり、現場でのデータ活用は複雑かつ難易度も高い。そこでAIをはじめ最先端のデータ活用に果敢に取り組む女子カーリングチーム「フォルティウス」の主力選手と技術顧問、そして様々なデータマネジメントソリューションを展開する日本ヒューレット・パッカードのテクノロジーアーキテクトが徹底討論。女子カーリングにおけるデータ活用の舞台裏に迫りつつ、現場で直面するデータ活用の課題や突破口、最新テクノロジーの可能性などについて語ってもらった。
先駆的なデータ活用を進めるフォルティウス
カーリングは氷のリンクに石(ストーン)を滑らせ、ハウスと呼ばれる円の中心に最も近い場所を争奪するスポーツだ。一投ごとに局面が変わる中、どうやって攻め、どのように守るか。そこには高度な戦略と判断が要求される。
そもそもカーリング界でITを駆使したデータ活用が始まったのは約10年前のことだ。ある専用アプリが登場し、ショット(投擲)ごとのスタッツ(ストーンの配置状況)を簡単にデジタルデータで残せるようになった。ここに記録・蓄積したデータを見ながら、試合前のミーティングや試合中の戦略立案を行ってきたという。
一方で、このアプリは既に多くのチームが使っている。差別化を図るには、より高度なデータ分析にチャレンジすることが不可欠だ。人がデータを見るだけでは気付けないインサイトを、大量のデータの相関分析やAIの活用によってもたらす。このような狙いのもと、先駆的なデータ活用を進めているのがフォルティウスである。

「札幌を本拠地とするフォルティウスは、2021年に日本カーリング選手権大会、パシフィックアジアカーリング選手権大会で優勝した強豪チームです※。私は2023年2月からフォルティウスの技術顧問を務めています」と話すのは北海道大学大学院の山本 雅人氏だ。長年にわたるAI研究のほか、自らもカーリングをプレーしてきた経験を生かしてチームのデータアナリストを務める。
カーリングにおけるデータ活用で難しいのは、不確定要素の多さだという。例えば選手ごとのショットの技量やその日の体調、リンクの氷の状態などは毎試合異なる。そのため、デジタル空間上で見出した「最善手」を選べば勝てる、という単純なものではないのである。この難題に、山本氏とフォルティウスはどのように向き合っているのか。