ESとCS双方を向上させて接客業の課題を解決

 斬新な発想や最新の技術を活用して、世の中にない新たなモノやサービスを生み出すイノベーションは、「失われた30年」から抜け出せずにいる日本の現状を打破するカギともいわれる。そして、UberやAirbnbを例に挙げるまでもなく、イノベーションの実現にモバイルアプリの活用を中心とした最新のITは欠かすことのできない要素だ。

 しかし一方で、モバイルの必要性がイノベーションの阻害要因になってしまうこともある。多くの企業に経験や実績がなく、システム化が難しかったり、コストや開発期間が読めなかったりして、なかなか実装にまでたどり着けないのだ。

 そうした中で、斬新なビジネスアイデアをすばやくシステム化して効果を挙げている実例がある。JR東日本が2024年6月から提供を開始した「TipSmile(チップスマイル)」というサービスだ。小売店や飲食店などで受けたサービスに対して、来店客がスマートフォンを通じて気軽に応援メッセージを送ったり、JRE POINTをチップとして渡したりできる、というものである。

 様々な職場で人材不足が深刻化する昨今。特に、小売りや外食など接客業の離職率は高く、人材の維持・確保に悩む企業は少なくない。TipSmileは、従業員のモチベーション向上に貢献し、この課題の解決策になり得る。働く人のやる気が高まることでサービス品質が向上し、さらなる集客で収益が上がるという好循環も期待できる。実際、サービス開始に先立って行われた実証実験では、従業員満足度(ES)、顧客満足度(CS)ともに顕著な効果が見られた。

 TipSmileはJR東日本の駅ビルなどを中心に導入が進み、小売りや外食分野への外販でも成果を積み上げている。しかし、その開発の裏側を探ると意外な事実が浮かび上がる。アイデアの発案者自身が、自ら選定したベンダーとタッグを組んで、すばやいシステム化に成功していたのだ。しかも、システム化ではローコード開発ツールが用いられたという。社内の業務システムでは適用が広がっているが、顧客向けのコンシューマーアプリをローコード開発ツールで作成したというのは、非常に画期的だ。

 その開発プロセスはどのようなものだったのか、そしてどのようなツールが活用されたのか。TipSmile開発の経緯からは、イノベーションだけでなく、各企業が推進しながらなかなか成果を出せずにいるDXに関しても重要なヒントが隠されている。

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