なぜ日本企業の基幹システム移行は難航するのか――。従来のシステム監視を超える仕組み、新たなパラダイムとしてSAPを含むITシステムの“心電図”の役割を担う「オブザーバビリティ(可観測性)」を推進するNew Relicの清水氏は、「そもそも経営陣が自ら判断できる材料が足りていない」と指摘する。同氏が提言する「経営陣がデジタルビジネスという車のハンドル=主導権を取り戻すための手段」に迫る。
経営陣がハンドルを握れていない――。
ブラックボックス化するシステムと「失われた主導権」
「2025年の崖」、そしてSAP ECC 6.0の保守期限に伴う「2027年問題」――。これらのキーワードが象徴するように、多くの日本企業は現在、基幹システムの大刷新という難局を迎えている。
「しかしこの問題を単なる“IT部門の移行プロジェクト”と捉えているとしたら、それは大きな間違いです」と警鐘を鳴らすのは、New Relicの首席エヴァンジェリスト 清水 毅氏である。

清水氏は、企業におけるSAPなどの基幹システムを「ビジネスを支える中枢」と話す。「2027年問題とは、例えるなら車を止めることなく全速力で走らせ続けながら、中枢となるエンジンを丸ごと入れ替えるような、極めてリスクの高い大移植を意味します。経営陣には今、この大移植をベンダーや現場に丸投げするのではなく、自らの手でシステム運用の主導権を取り戻す、その覚悟が問われています」(清水氏)
なぜ日本の基幹システム移行は難航するのか――。その原因について、清水氏は「技術的負債」と「スキルのサイロ化」の2つを挙げる。
「技術的負債」とは、過度なカスタマイズを意味する。これまで日本企業は、自社の業務フローや取引先との商習慣に合わせて、様々な機能を独自に作り込んできた。基幹システムとして多くの企業が採用してきたSAP ERPがその代表で、多くの企業がアドオンとしてカスタマイズを積み重ねてきたのである。最新のSAP S/4HANAにマイグレーションしたいと考えても、既存アドオンの膨大なテストや修正が必要になり、足踏みをする企業は少なくない。
清水氏が「さらに深刻」と捉える「スキルのサイロ化」も問題だ。SAPに限っても、アドオンを扱うコンサルタントや、インフラを支えるBasisコンサルタントなどで分業化が進んでいる。
また、現代のデジタルビジネスは基幹システム単独で実現されているわけではなく、ECサイト、業務アプリケーション、クラウドインフラなどが複雑に結合しながら動作している。技術的にもそれぞれ異なるスキルが要求され、使用している用語も違えば、見ている指標(KPI)も違う。担当領域が異なるので、他のエンジニアがやっていることも見えてこない。
「ビジネスプロセスでエラーや処理遅延が発生したときに、誰も全体像が分かりません。互いに悪意のない『たらい回し』が発生し、誰もアクションが取れないという事態が起こっています。結果として、経営陣から見て、自社のデジタルビジネスが今どのような状態なのか、ブラックボックス化して見えない状況に陥り、自らの手で経営をコントロールできなくなっているのが実状です。つまり、経営陣が経営を動かす『ハンドル』を握れていないのです。このままで、本当に良いのでしょうか」(清水氏)