ハイブリッドクラウドとは、オンプレミスのシステムとプライベートクラウドやパブリッククラウドを連携させて運用する形態である。AI活用が実証実験フェーズから実運用フェーズへと移りつつある中、AI活用環境として「ハイブリッドクラウド」が改めて注目されている。
本記事では、AI時代の新たなハイブリッドクラウドの形や、サーバー選択のポイントについて解説。また、ハイブリッドクラウド導入の成功事例も紹介する。
AI時代に「ハイブリッドクラウド」が注目される理由
生成AI活用が実運用フェーズへ移行する中、ハイブリッドクラウド型のインフラ構築が改めて注目されている。パブリッククラウドで提供されているAIサービスを利用するだけでなく、プライベートクラウドやオンプレミスでAIを動かす方向へと変化しつつあるのだ。
ここで、パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミス、そしてハイブリッドクラウドという、主要なITインフラ運用モデルの違いをまとめてみよう。
| 分類 | 特徴 | 利点 | 考慮事項/課題 |
|---|---|---|---|
| パブリッククラウド | クラウド事業者が所有・運用する大規模な共有インフラを、インターネット経由で多数のユーザーが利用する形態。 | 拡張性と弾力性が高く、負荷変動に強い。初期投資不要で、運用負荷も軽減できる。 | 責任共有モデルにより一部セキュリティは利用企業側が担う。クラウド固有のロックインリスクもある。 |
| プライベートクラウド | 特定の企業のみが利用する専用クラウド環境。自社DC構築型と外部事業者提供型の2つの形態がある。 | 制御性が高く、コンプライアンス要件にも対応しやすい。また、コスト予測もしやすい。 | 自社構築の場合は初期投資・運用負荷が大きい。クラウド基盤の保守も継続的に必要。 |
| オンプレミス | 企業が自社施設に物理サーバーを設置し、ITインフラを完全に自社管理する形態。 | 完全な制御が可能で、機密性の高いシステムでも要件に合わせて最適化しやすい。 | 初期投資・設備・人材確保など総所有コストが高い。拡張に時間がかかり、災害対策も自社で行う必要がある。 |
| ハイブリッドクラウド | オンプレミス、プライベート、パブリックなど複数の環境を組み合わせて、一体的に利用する形態。 | コスト最適化と柔軟性を両立しつつ、セキュリティ要件にも対応しやすい。 | 複数環境の統合管理が必要で運用が複雑化する。ネットワーク遅延やポリシー統一も課題。 |
なお、ハイブリッドクラウド型のインフラ構築が注目されている背景には、「ソブリンAI」へのニーズの高まりがある。
高まるソブリンAIニーズ
ソブリンAIとは、利用する企業がデータの主権(データソブリンティ)を確保できるAI環境である。企業におけるソブリンAIの主な特徴は以下のとおり。
- データ主権の確保:機密データや個人情報を外部リージョンに渡さず、国内または自社管理下でAI処理を行う。
- 技術的独立性の確保:海外サービスへの過度な依存を避け、国内基盤や適切なパートナーを活用しながら運用をコントロールする。
- 法的・倫理的遵守:国内の法規制・ガイドライン、自社の文化や価値観に沿ったAI利用が可能になる。
- 地政学リスクの軽減:国際情勢によるサービス停止やデータアクセス制限といったリスクを最小化する。
- 高度なセキュリティ確保:国外からのアクセスリスクやデータ流出リスクを低減し、安全性を保つ。
パブリッククラウドで提供されるAIサービスでは、アップロードしたデータがどこにあり、どのように使われるのかが提供側に依存し、ブラックボックスとなっているため機密性の高いデータの利用が難しい。
そこで、自社のデータガバナンスのもと独立して運用・管理できるソブリンAIのニーズが高まっているのだ。
最先端のAIツールはクラウドに存在している
現在、オンプレミスで動かせるAIモデルやAIツールは多数存在する。これらを利用することで、オンプレミスで動かすソブリンAIは、容易に実現可能だ。
しかし、急速に進化し続けるAIモデルやAIツールに、いかに追随していくかは大きな問題である。なぜなら、最先端のAIモデル/ツールのほとんどは、パブリッククラウドのサービスとして提供されているからだ。
ハイブリッドクラウドはAI時代を先行するためのカギ
ソブリンAIを実現しながら、最先端のAIモデル/ツールも活用したい。こうしたニーズに対応できるのがハイブリッドクラウドだ。
オンプレミスとクラウドの融合により、社内の機密データを外部に出さずにトレーニングを行うことができ、最先端のAIモデル/ツールも利用できる。ハイブリッドクラウドは、AI時代を先行し続けるための重要なカギといえるだろう。
従来型ハイブリッドクラウドの課題
AI活用基盤としてのハイブリッドクラウドは、単にオンプレミスとパブリッククラウドを接続するだけでは十分ではない。「従来型のハイブリッドクラウド」には以下のような課題があるからだ。
構築・運用に高いスキルが必要
従来型のオンプレミスシステムは、パブリッククラウドのインフラとは大きく異なっている。そのため、これらを組み合わせたハイブリッド環境の構築・運用には、両方の環境を熟知した高いスキルが必要である。そうしたエンジニアを確保することは、ほとんどの企業にとって容易ではない。
本当の意味でのソブリンAI実現が困難
AIモデル/ツールをパブリッククラウドで利用する場合、社内データをパブリッククラウドにアップロードすることになる。しかし、これでは本当の意味でのソブリンAIを実現しているとはいえない。
AI活用で最も重要なのはデータである。真のソブリンAI実現のためには、データをオンプレミス側で完全に確保し、外部に出さない仕組みが必要だ。
AI時代の「新たなハイブリッドクラウド」の形
単にオンプレミスとパブリッククラウドを接続しただけの「従来型のハイブリッドクラウド」では、AI時代のニーズに応えることはできない。これからの時代に求められる「新たなハイブリッドクラウド」は、「パブリッククラウドのプラットフォームをそのままオンプレミスに実装したもの」である。
この方式であれば、パブリッククラウドで提供されている各種ツールをオンプレミスで実行しつつ、データをパブリッククラウドにアップロードする必要がない。またプラットフォームを共通化することで、構築・運用に必要なスキルも限定的になる。
そうしたソリューションの1つが「Azure Local」である。
Azureサービスをローカルで動かすAzure Local
Azure Local(旧Azure Stack HCI)は、Microsoft Azureの各種サービスを、オンプレミスにあるローカルサーバー上で動かせる環境である。
Azure Local OSをオンプレミスサーバーにインストールし、Azure ArcでMicrosoft Azureと連携させることで、導入・運用・監視までMicrosoft Azureから一元管理できる。
またMicrosoft Azureで提供されている各種ツールも、そのままオンプレミスで動かすことが可能である。Microsoft Azure上で提供されている仮想デスクトップサービス「Azure Virtual Desktop(AVD)」をハイブリッド型で動かせるほか、オンプレミスとパブリッククラウドで一元化された仮想環境も実現できるのだ。
データ自体はオンプレミス側のローカルサーバー内に保持されるため、機密性の高い社内データが外部のパブリッククラウドに物理的に転送されることを防ぎ、データ主権を確保できる。
一方、Azure Arcを介して管理プレーンのみをクラウドと連携させることで、パブリッククラウドの管理性と最新AIツールへのアクセスを両立できるのである。
ハイブリッドクラウド成功のポイント
AI時代の新たなハイブリッドクラウドを成功させるには、適切なハードウエアの選定と信頼できるパートナーの存在が不可欠である。ここでは、Azure Localを活用したハイブリッドクラウド構築において、特に重要となる2つのポイントを解説する。
Premier Solutions認定のハードウエア
Azure Localの導入には、マイクロソフトが認定したハードウエアを利用する必要がある。なお、認定ハードウエアは大きく以下の3つに分けられる。
- Validated Nodes:Azure Local対応のハードウエアノード
- Integrated Systems:ソフトウエアをプリインストールした専用システム
- Premier Solutions:導入から運用まで一貫した自動化が可能なシステム
Azure Localのメリットを短期間で享受するには、Premier Solutionsに認定されたハードウエアを採用すべきである。Premier Solutionsは、事前に自動化・統合・検証が行われているため、インフラの構築・管理に費やす時間を最小化できるからだ。
経験豊富なベンダー
Azure Localは、2020年12月に「Azure Stack HCI」として提供が開始された。登場からそれほど時間が経過していないこともあり、ベンダーの中には、あまり導入実績や経験を持たない企業も多い。
十分な導入経験のないベンダーの製品は想定外のトラブルが発生しやすく、またその解決にも時間がかかりやすい傾向がある。ハイブリッドクラウドを成功させるため、できるだけ経験豊富なベンダーを選定することをおすすめする。
ハイブリッドクラウドにおすすめのサーバー製品
ハイブリッドクラウド成功のために求められる条件を、高いレベルで満たしているベンダーの1社が、デル・テクノロジーズだ。
同社はマイクロソフトとの長年にわたるパートナーシップのもと、Azure Local対応のサーバー製品をいち早くリリースし、Premier Solutionsとして認定されている。
ここからはAzure LocalでAI環境を実現する上で、注目の製品を紹介しよう。
Dell AX System for Azure Local
「Dell AX System for Azure Local」はマイクロソフトが認定した、Azure Local対応のサーバーハードウエアである。
コンパクトでCPU密度が高いモデル、高負荷なワークロードに対応したモデル、柔軟性が高く頑丈なエッジコンピューティングに適したモデルを用意している。
ハイブリッドクラウドの導入事例
ここからは、実際にハイブリッドクラウドを導入した企業の事例を紹介する。
地域の急性期医療を担う甲信越地方の医療機関
同病院は、国内でも有数の先進的な医療情報インフラを整備していることでも知られている。同院は、生成AIやクラウドなどの技術を有効活用できる新たな院内情報基盤として、Azure Localを採用した。
これにより、医師/看護師の業務負荷を軽減する生成AIアプリケーションの開発や、電子カルテに蓄積された医療データの分析・利活用など、今後の医療DXを下支えする先進的な医療情報インフラを実現している。また、運用管理の効率化やライセンス管理の一元化など、IT面での成果も上がっている。
参考リンク https://www.dell.com/ja-jp/lp/dt/customer-stories-matsumoto-kyoritsu-hospital総合油圧機器製造業
同社は、四輪車・二輪車用の緩衝器や産業用の油圧機器など、グローバルにビジネス展開している独立系の油圧部品メーカーである。
同社は、サーバー群のサポート終了やハードウエアの保守切れに伴う入れ替え時に、将来的なクラウド活用を見据えてAzure Localを導入。ラック容量の半減、年間200万~400万円のコスト削減、パフォーマンス向上、バックアップの自由度向上など、さまざまなメリットを実現している。
参考リンク https://www.dell.com/ja-jp/lp/dt/customer-stories-kyb洋酒の専門商社
同社は、製菓・製パン業向け洋酒の製造・輸入販売を手掛け、事業活動を支える各種の業務システム群をマイクロソフト Hyper-Vによる仮想化基盤に集約していたが、更新時期を迎えたことを機に次期仮想化基盤の導入に着手し、Azure Localを採用した。
その結果、少人数でも効率的に運用管理を行えるシンプルな環境を実現。また、インフラ性能の向上により、日次締め作業の処理時間を従来の1/4以下に短縮することにも成功している。
参考リンク https://www.dell.com/ja-jp/lp/customer-stories-doverハイブリッドクラウドがAI活用の未来を切り開く
ハイブリッドクラウドは業務効率化やコスト削減だけでなく、事業そのものの競争力強化につながる。Premier Solutions認定のハードウエアと経験豊富なベンダーのサポートがあれば、導入のハードルは決して高くない。
自社のデータ主権を保ちながら最先端のAI技術を駆使できる環境の構築は、AI時代を戦う企業にとって不可欠な選択となるだろう。
よくある質問
Q.ハイブリッドクラウドとは?
ハイブリッドクラウドとは、オンプレミスのシステムとプライベートクラウド、パブリッククラウドなどを連携させて運用する形態である。
AI活用環境として、パブリッククラウドで提供されている各種ツールをオンプレミスで実行しつつ、機密データはオンプレミス側のローカルサーバー内に保持する、「新しいハイブリッドクラウド」が注目されている。
Q.ソブリンAIとは?
「ソブリンAI」とは、利用企業がデータの主権(データソブリンティ)を確保できるAI環境である。
パブリッククラウドで提供されるAIサービスでは、アップロードしたデータがどこにあり、どのように使われるのかがブラックボックスとなっているため、機密性の高いデータの利用が難しい。そのため、自社のデータガバナンスのもと独立して運用・管理できる「ソブリンAI」のニーズが高まっている。
Q.ハイブリッドクラウドを成功させるには?
AI時代の新たなハイブリッドクラウドを成功させるには、適切なハードウエアの選定と信頼できるパートナーの存在が不可欠である。具体的に、Azure Localを活用したハイブリッドクラウド構築においては、以下の2点が重要となる。
- Premier Solutions認定のハードウエア
- 導入経験の豊富なベンダー


